配偶者控除及び配偶者特別控除の改正について
12月に入り年末調整の準備が始まっていると思いますが、今回は平成29年度税制改正により、配偶者控除及び配偶者特別控除が見直され、控除額等が改正されたことにより扶養控除申告書等の様式が大幅に変更されていますので、その点を中心に述べていこうと思います。
【1】今回の改正点の概略
(1) 配偶者控除
改正前の配偶者控除の控除額は、居住者の合計所得金額に関わらず一律38万円(老人控除対象配偶者の場合は48万円)でした。
改正後は、その合計所得金額が900万円を超えると26万円(同32万円)、950万円を超えると13万円(同16万円)と減少していきます。
さらに、合計所得金額が1,000万円を超えると、配偶者控除の適用を受けることができなくなりました。
(2) 配偶者特別控除
改正前は配偶者特別控除の対象となる配偶者の所得要件は、合計所得金額が38万円超76万円未満でした。
改正後はこの所得要件が、合計所得金額が38万円超123万円以下に拡大されるとともに控除額が改正されました。
※ 参考:給与所得のみの場合のそれぞれの所得に対応する給与収入金額は以下の通りです。
合計所得金額 900万円超 … 給与収入 1,120万円超
合計所得金額 950万円超 … 給与収入 1,170万円超
合計所得金額 1,000万円超 … 給与収入 1,220万円超
合計所得金額 38万円超 … 給与収入 103万円超
合計所得金額 123万円以下・給与収入 201万6千円以下
なお、上記の改正は平成30年以後の所得税について適用されますので、本年の年末調整には直接関係しません。
【2】給与所得者の扶養控除申告書等の様式変更等
(1) 扶養控除等申告書
@ 区分等Aの「控除対象配偶者」が「源泉控除対象配偶者」に変更されました。
源泉控除対象配偶者とは、所得者本人の平成30年中の合計所得金額の見積額が900万円以下と生計を一にする配偶者で平成30年中の所得の見積額が85万円以下の人をいいます。
A 区分等のCの「控除対象配偶者」が「同一生計配偶者」に変更されました。
同一生計配偶者とは、所得者本人と生計を一にする配偶者で平成30年中の所得の見積額が38万円以下の人をいいます。
(2)配偶者控除等の申告書の新設等
今回の改正により新たに「配偶者控除等の申告書」が設けられるとともに配偶者特別控除額の計算欄もこの申告書に含まれることとなりました。(本人の合計所得金額の見積額が1,000万円を超える所得者は配偶者控除、配偶者特別控除を受けられませんので、この申告書の提出は必要ありません。)
まずこの申告書の「あなた(所得者本人)の合計所得金額の見積額」の計算欄により見積額を計算し、その金額を「あなたの本年中(平成30年)の合計所得金額見積額」欄に転記し、判定欄にてその金額により
900万円以下(A)
900万円超950万円以下(B)
950万円超1,000万円以下(C)
という区分を判定します。(区分T)
次に、「配偶者の合計所得金額(見積額)」の計算欄により見積額を計算し、その金額を「配偶者の本年中の合計金額」欄に転記し、その金額及び配偶者の生年月日により
38万円以下かつ年齢70歳以上(昭和24.1.1以前生)@
38万円以上かつ年齢70歳未満A
38万円超85万円以下B
85万円超123万円以下C
の区分を判定します。(区分U)
最後に「控除額の計算」の欄において上記区分T及び区分Uの判定結果を基に配偶者控除額または配偶者特別控除額を求めます。
なお、本稿執筆現在「配偶者控除等申告書」の正式な様式が決まっていませんので今回の配布書類にはこの申告書は同封されていません。また、レイアウト、語句等が変更されることもあります。
【3】平成30年1月以降の給与所得の源泉徴収事務
給与所得者の源泉徴収税額を計算する際の扶養親族等の数の計算において
(1) 改正前は、配偶者が控除対象配偶者に該当すれば扶養親族等に1人加算していましたが、改正後は、配偶者が源泉控除対象配偶者に該当する場合に限り1人を加算します。
(2) 改正前は、控除対象配偶者が障害者に該当する場合には、扶養親族等の数に1人(同居特別障害者に該当する場合には2人)を加算していましたが、改正後は、配偶者が同一生計配偶者に該当する場合に限り、扶養親族等の数に1人(同居特別障害者に該当する場合には2人)を加算します。
(税理士岩井)
平成29年度の税制改正について
平成29年度税制改正法案が3月27日に可決・成立しました。
1カ月近く経ちましたが、改めて主だったものの概要を軽く確認したいと思います。
1.個人所得課税・資産課税
(1)配偶者控除・配偶者特別控除の見直し(30年1月以後)
→配偶者控除の対象となる配偶者の給与収入
現行103万円以下 → 150万円以下に、
→配偶者特別控除の対象となる配偶者の給与収入
現行103万円超〜141万円以下 → 150万円超201万円以下に
(2)「積立NISA」の創設(30年1月以後)
→投資信託限定で年間40万円までの投資を20年間非課税で運用できることに
(最大800万円)
(3)事業承継税制の見直し(29年1月1日以後)
→非上場株式の相続時、贈与時の納税猶予制度について、納税猶予要件の1つである
平均雇用要件(5年間平均で雇用を8割維持)を見直し、雇用者が5人以下の法人で
1人減った場合でも適用可能に ex相続時雇用者 4人→3人 0.75<0.8でも要件クリア
→相続時精算課税との併用が可能に
(4)非上場株式の評価見直し(30年1月1日以後)
→同業種の上場株式を参考にして非上場株式の株価を導き出す評価法(類似業種
比準方式)につき、計算要素である"配当""利益""簿価純資産"を従前は
配当1:利益3:簿価純資産1の割合で評価をしていたが
改正により 1:1:1の割合での評価に変更された。
(5)国外財産に対する相続税等の納税義務の範囲の見直し(29年4月1日以後)
→相続税の納税義務について、国内に住所を有しない者であって日本国籍を有する
相続人等については、被相続人等および相続人等が相続開始前5年以内のいずれ
の時においても国内に住所を有しなければ、国外財産には課税されなかったが、
"5年以内"の要件が"10年以内"に変更された。
2.法人課税
(1)研究開発税制の見直し(29年4月1日以後)
→税額控除の対象となる「試験研究費」の範囲に、従来の「モノ」「技術」
に関する開発に加え、ビッグデータや人工知能(AI)、IoT等を活用した「第4次
産業革命型」のサービス開発を追加。
ex自然災害予測サービス、ヘルスケアサービス等の情報配信サービス
(2)所得拡大促進税制の見直し
→給与の総額及び平均給与額が増加した場合に、法人税額から給与増加額の
10%を控除できる制度について改正が行われ、
@中小企業以外については、"平均給与額が2%以上増加"という要件が加わる
かわりに、控除額が給与増加額の12%(最大)となった。
A中小企業については、同要件を満たした場合には従前の10%の控除額に加えて
プラス12%の控除額が追加された。(最大22%)
(3)コーポレートガバナンス改革・事業再編の環境整備
→法人税 の申告期限を事業年度終了後から最大6カ月後まで延長可能に
(4)中堅・中小企業の支援
→地域の中核企業が、地域経済に波及効果のある高い先進性を有する事業を行う
場合に、その設備投資を対象に投資促進税制を創設。
→中小サービス事業者が行う設備投資(冷蔵陳列棚、空調設備等)のうち、生産性
向上に資 するものについて、即時償却又は 10%(資本金3千万超の法人は7%)の
税額控除の対象に追加。(29年4月1日〜31年3月31日取得)
→中小企業向けの租税特別措置の適用要件に、課税所得(過去3年間平均)が 15 億円
以下であることを追加(31年4月1日以後開始事業年度)
(5)地方拠点強化税制の拡充
→本社機能移転等に係る設備投資促進税制、雇用促進税制(新規雇用者数に
応じた税額控除)の拡充
3.国際課税
外国子会社合算税制の見直し(30年4月1日以後)
→外国子会社の所得を課税対象に加えるかどうかの基準となっていたトリガー
税率(現行20%未満)が廃止されました。改正後も租税負担割合が20%以上であれば
課税は行われませんが、ペーパーカンパニーなどの経済実態のない法人については、
日本の法人実効税率(29・97%)以下のすべての国が合算税制の対象に
このほかにも、タワーマンションに係る固定資産税の見直しやエコカー減税の対象縮小、酒税改革等、生活に関わる税制改正が行われています。今後、個々の詳しい内容や事例等について、確認していきたいと思います。
(税理士 城市)